現在の人類(ホモ・サピエンス)が地球上に出現したのは約4万〜1万年前といわれていますが、歯の病気はどのように人類を悩ませてきたか、またそれを治療する歯科医学はどのように進歩してきたのかを今月からみていきましょう。
 




御存知のように、人類はまず狩猟採集生活を営み、農耕や牧畜をするようになったのはずっと後のことです。一番の栄養源は野生動物の肉、内臓、骨髄、血液などで、ときには生で摂取していました。現代のように豊富な炭水化物や糖分に接する機会は非常にまれだったと思われます。現代でも、伝統的な生活を守っているイヌイット(エスキモー)の人々は海獣(アザラシなど)の肉を生で食べることで有名ですが、彼らには虫歯は非常に少ないことが知られています。それだけでなく、心臓病、高血圧、脳血管障害(脳卒中)、糖尿病、ガンなどの生活習慣病(成人病)も現代人とは比較にならないほど少ないのです。そんな訳で、いま私たちが命を脅かされている病気の大部分が先史時代の人々には無縁のものだったことになります。
それでは、石器時代のヒトは歯の病気に悩まされる事はなかったかというと、そうではありません。硬い食物を日常的にとっていたため、かむことによる歯のすり減り(咬耗、こうもう)が40才代までに急激に進行し、それにより露出した歯髄(一般に「歯の神経」とよばれているもの)から細菌感染症を頻繁におこしたと考えられています。現代のように優れた抗菌剤(化膿止め)も無く、もちろん原因の歯を抜歯したり炎症を治めたりする歯科医学などありませんから、局所から血液中に細菌が侵入し全身をおかした状態(敗血症)になり死亡するケースが少なくなかったようです。現在、「歯で命を落とす」という場合は余り多くありませんが、この時代は主要な死因のひとつだったのです

石器の一例
かなり鋭いですがこれで歯を抜くのは至難の技でしょう


イヌイット(エスキモー)の女性、19世紀
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